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§?) 余談





フォルクスワーゲンタイプ1



 だから幼い頃、交通量も疎らな裏路地で見かけた、近くの歯科医が乗り回す白っぽい色のタイプ1をして、ほとんど知識がなくても舶来品であることを知っていたのは、けだし当然なのかも知れない──。

 フォルクスワーゲンというメイカーは、ドイツにあって国民のための自動車を作り続け、文字通り、世界中の様々なユーザーに愛されている。

 ときには戦地を駆け抜け、ときには畑で作物を積み込み、また違う場所では彼氏が彼女に愛の告白をするための住処となる。あるいはドアが凹み、バンパーが無くなった車体でも憚らず使われる一方で、工場のラインを出たばかりのコンディションを取り戻されたピカピカの自動車もある。

 単一の車種では最も多く生産されたタイプ1は、実に前世紀半ばに生産が始まり、つい先頃まで作り続けられていた、最も生き長らえた実用車なのだ。兎にも角にも、これだけ激しく流行する自動車デザインの中で、昔の姿のまま今でも走り続けている事実は、ちょっと感動的でさえある。

 ひょんな事から一緒に暮らすようになったタイプ1ビートルは、1975年に生まれた1303Sと呼ばれるモデルで、一部のクラシックビートルのファンから見れば、ほとんと趣味の対象にならない代物らしい。されども生まれてから、すでに四半世紀を超えているワケで、同年代の日本の自動車を思い出せば、もう充分に古くさい。

 もはやオイルクライシスを境に自動車趣味を論じるのは、ことが出来ない時代がきているのかも知れない。

 ところでこのタイプ1は、前オウナーの深い愛情に培われ、時のヤナセ自動車から引き渡された当時のままの姿を保っている、いわゆるフルオリジナルなのだそうだ。

 フォルクスワーゲンを数多く手がける「くらなが自動車」の整備は完璧で、未だに2〜3回のクランキングで始動し、雨でも雪でも、炎天下でも、自動車が音を上げることは無い(ドライバーは別だ)。

 そもそも「ワーゲン」と云う自動車は実用車なので、こうした点は至極当たり前の事に違いないけれども、やはり鉄の塊である自動車が数十年前と同じ格好で走り続けているのは、やはり驚異的なことなのである。

 前オウナーの意志を継ぐためにも、最もビートルらしい乗り方で走らせてやることが肝要、と自戒するのであった。ときどき見かける裏路地の白っぽいタイプ1に、黙って何かを教えられているような気がしてならない。



* フォルクスワーゲンタイプ1 *

■ 関連サイト くらなが自動車






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