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§?) 余談





FIATパンダ
 いまは千葉に暮らす実弟があるのだが、もうずいぶん前、彼が自動車を買う気になったときの事だ。もちろんMGBはすでにガレージにあって、傾倒する兄の姿を見れば、看過されるか、もしくは古い自動車なんて大っ嫌いになるか、どちらかだったのだろう。

 しかし彼はそれなりに興味を持ち、何か自分の手足で操る自動車を欲したのだった。いきなりパンダではない。

 やはり軽量2座トァラーの爽快なドライビング感覚は誰しもが認めるところでもあり、そこへ渡りに船とばかりにMGミジェットの売り物を見つけた。さても思案に耽ったのだが、いくら何でも屋根の無い自動車が2台では、ほとんど現代の生活にマッチしない。いたしかたなく彼はそれを諦め、次なる候補を探していたのだった。

 イタリアの自動車は回せば走る。当時は「イタ車」などという甚だ照れ臭い言葉が、のきなみ自動車雑誌に踊っていた時代だった。

 中でもフィアットは、戦前から名を馳せる由緒正しいという自動車メイカーで、イタリアが誇るカロッツェリアが創った美しく機能的なボディを万人に分け与えてくれる。ジョルジオ・ジウジアーロの創作による鉄の芸術を、パンダという名前で安価に入手できる、と彼は知った。

 750ccから出発したエンジンは、ファイアエンジンなんていう気の利いた名前を付けられて1000ccになり、小さな気化器でブンブンと回って、小柄な車体を元気玉のように走らせる。低速のトルクは薄くとも、負荷時の中高速域はやたらと美味しい。

 雑誌のインプレッションや評判をから集めた情報は、まあ、そんな感じだった。果たして・・・。

 ところが、どうだ。踏んでも踏んでも美味しい回転域なんて出てこないばかりか、旋回性能も頗る悪い。オイルの滲みは尋常なレベルではなく、ついにはコンタクトポイントが焼けてしまい、始動さえままならなくなった。

 もう渋々としてスペア部品を購入すべく自動車屋を訪れたら、ポイント一個が7000円だと!(そりゃ、いったい何で出来てるんだよっ)

 かくてフィアットパンダは、大した評価をされないまま居座り続けた。重たく堅いハンドル、しこたま喧しいエンジン、加えて左ハンドル(左側通行の日本でやはり危険なレイアウトだ)、と美点らしいところを感じない自動車ではあったけれど、実は、それこそがパンダの特徴だったのかも知れない。

 イタリアという国の石畳の路でも、ぶどう畑の畦道でも、拙く舗装されたアスファルトの道路でも、パンダはどこへでも走っていく。ドライバーに特別な技能を要求することなく、暑い日は暑いまま、野に花が咲けば昆虫たちと一緒になって、何も足さず何も差し引かずに、ただ人と物を積んで走るのだ。毎日の暮らしの中で、自動車に乗るといっていちいちワクワクする必要なんて、ないのである。フィアットパンダは、イタリア人のそんな日常の中で、いつも、いつまでも側にいるにちがいない。

 たった一つの美点。ジウジアーロの直線的な素晴らしい車体デザインは、最初期にパンダが生まれて以来、いまでもずっと、その文脈が守り続けられている。余分な曲面や、奇妙なプレスラインを持たない堂々として潔いデザインを、日本の小型車も、そろそろ見習ってみてはどうだろう。



* FIATパンダ *

■ 関連サイトFIAT(イタリア語)






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