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◆レーダー探知機

　わが相棒、ＭＧＢの検査証を見ると、初度登録年に「不明」と記されている。

　履歴が追えない不利をのぞけば、実のところなんとも都合が良い。この２文字の恩恵は、排ガス規制や保安基準の該当時期を闇に包んでくれているワケで、つまり、ほとんど何でもパスできるのである。

　とはいえ、速度超過なんぞの現行犯だけは免れる術はない。スピードに興味を無くしたいまどきでは余り意味のないモノでもあるが、いま流行りのレーダー探知機を入手した。

　新しい機械モノを買ったら、とにかく早く使ってみたいのは子供の頃からの性分で、さっそくＭＧＢに取り付けて「ピピッ」という探知音に期待を膨らませるのだった。

　どっこい、この１９６３年製のＭＧＢはバッテリーのアース極性が「プラスアース」だから、とりわけラジオなど、本体ボディをアースに利用する製品は、よろず装着に難儀をする。そう、市販の電装品は、当然ながらおしなべて「マイナスアース」仕様。電源はシガライターのソケットであることが多いのである。

　さて、そのレーダー探知機の電源端子。すなわちシガライター形状のコンセントプラグを手にして、ハタと困惑した。うーむ、回路の改造は面倒だし、されど「ピピッ」は聴きたい．．．。結局、ＭＧＢのシガライターのソケットを改造したのである。しかも簡単至極な方法で。

　それが、ことの起こりだった。嗚呼。

　ソケットを裏から眺めると、中心端子と外枠端子が見える。

　プラスアース仕様の旧ＭＧＢは、中心端子がバッテリーのマイナスに、そして外枠端子が車体のプラスに、それぞれ結線されている。その結線をあべこべにして極性を逆転させれば、探知機のライター状プラグは、そのままソケットへ差し込んで使えるではないか。妙案！ さっそく電線などを用いて改造を施し、準備完了。

　無人取り締まりカメラのある道路を理由無く何往復もすると、そのたびに「ピピッ」。うん、うん、と独りゴキゲンな目出度いＭＧＢだ。こりゃイイ。

　しかし、ちょっと考えれば解るようにシガライターの外枠端子は剥き出しのマイナス。ＭＧＢの車体はプラス。助手席の足下へ無造作に転がした簡易電源は、文字通り一触即発の位置関係にある。

　知った上での造作なので万全の注意をはらっていたのだけれど、その日、元に戻すのが面倒で、探知機だけを外し、「はいオツカレサン」とガレージから離れた。なおも目出度い。


◆それどころではない・・・

　数日後。それは８月の水曜日のことだった。

　好天続きのこの日、スケッチブックをもってＭＧＢを発進させた。２時間ほど走った先の涼しい高原で、のんびりと休日を過ごすためだ。

　ガレージを発って十数キロ地点。

　幹線国道から左折。２速へ。勢いよく左にハンドルを切り込むと、タイアは僅かな煙と悲鳴をあげ、スライド。忙しくカウンターステアに移ったそのとき．．．なにやらゴム焼け臭い。

　『だれだ、焚き火してんのは？』

　だが、続くＳ字コーナーを控えては、それどころではない。

　９００kgのボディが左右モーメントの臨界域を出入りする。スタビライザーは軋み、両腕は激しいキックバックと格闘、タコメータの針はさらに踊る。

　ふう、緊張のタイトコーナーを抜け、下り直線に入った。心地よい疲労感に酔いしれる刹那である。

　間もなくウインドウデフロスターから白煙が吹き出した。

　『なんじゃ、コリャ？？？』．．．続いて『しまったっ！！！』

　いまさら気づいても、もう遅い。

　すでにエンジンはストール。次にハザード一斉点灯。それからワイパー作動。さらにヘッドライトがつき、ヒーターが回る。すべて勝手にだ。それどころではないのは、ああ、焚き火でなくて当方である。

　無念と落胆の脱力感に支配されつつ、ＭＧＢを路肩へ導いた。まあ、下り坂で．．．よかった．．．。

　何が起きたか。

　度胸を決めてハンドルを切り込んだときのことである。

　床に転がっていたマイナス剥き出しのソケットは、物理的法則にしたがって車体のセンタートンネルの方へ転がる。床マットだけを残し、トリム（内装）をすべて取り払っているＭＧＢのセンタートンネルは、もちろんプラス電流が流れている鉄板。

　南無三。１２ボルトの電流は、景気良く火花を上げてショートを起こしたのであった。

　床には、ダッシュボードの裏から皮膜の熔けたソケットの電線がだらしなくのたうちまわり、煙を上げていた。やおらボンネットを開けて見れば、ヒューズＢＯＸまでの電線が燃え上がっているではないか。消火、消火！！

　いわく「メインハーネス焼損」というべき事態。ギョェ〜、なんてこった。

* この文章は「Nob's Extra」から転載しました。