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§2) 写真と散文





アンチロールバーの甘酸
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◆ワインディングロードにて

 屋根の無いオープンボディならなおさらに、街なかの喧騒よりも山や海の長閑なところを目指して走りたくなるというものだ。

 それも直線道路が続く単調な道よりも、大小のコーナーがつづら折りになった、見晴らしの良いロケーションが好い。

 MGBを連れてそんなところに行けば、ああ、こいつと居てよかったなあ、としみじみ思えるのである。

 軽快にコーナーをクリアして走り続けると、いつのまにかハイペースになってくる。運転している本人は気分がいいこともあって、そんなことはちっとも気づいていない。

 しかし、スピードの上昇と共に車体の傾きが激しくなってくる。やがてアンダーステアが顔を見せはじめ、それを超えるとタイヤは臨界点を迎え、まもなくブレイクする。

 「いや、俺のMGBはハイグリップタイヤを...」と豪語してみよう。

 たしかにグリップの限界はさらに上昇し、コーナリング速度は速くなる。が、サスペンションはストロークの全てを使いきってインリフトを起こす。その瞬間、後輪のトラクションは失われ、やはりブレイクするだろう。

 これらは、クルマが曲がろうとするとき必ず起きる車体の傾斜=ローリングが起こす弊害なのである。

 それを防ぐために、MGBには『アンチロールバー』が装備される。そう、車体の傾きを抑え、シャープなコーナリングを実現するためのサスペンション部品だ。アメリカでは『スタビライザー』と呼ばれる、トーションバー型スプリング(ねじり棒バネ)である。



 「ロールを抑えればコーナーは速くなるんでしょ!」と言えれば簡単なのだけれど、ことはそれほど単純ではない。

 コーナーでことごとく起きるローリング現象の謎を解いておかねば、部品の選択もできないというものだ。

 さて、クルマが操舵に従って進行方向を変えるのは、たしかにタイヤのグリップ力に因るところが大きい。走りながらハンドルを切ると、クルマの直進方向とタイヤが向いている角度の差、すなわち「スリップアングル」が生まれる。

 それに車体の慣性重量が加わり、タイヤの「アドヒージョン=粘着性能」が、それらを受ける。同時に、サスペンション機構が様々なファクターを吸収しながら、すなわちロールしながらクルマは曲がる。いささか難解ではあるが、クルマは非常に論理的に曲がっているのだ。


 たとえば時速30kmではロールしなくても、時速60kmなら傾く。また一人乗りならスパッと曲がるが、満員&ガス満タンならやはりロールが起きる。あるいは重心が高い位置にあるほどロールは大きくなる。

 このように、クルマがロールするのは曲がるときに起きる荷重の移動のためで、車体の慣性に深く関わっている。だからこれらの要因を変化させれば、自ずとロール角度も変化する。MGBをコーナーで速く、しかも格好良く走らせるためには、すなわち車体のローリングを上手くこなせば良いのである。

 俗にある「強化スプリング」とは、バネの張力を強くして縮みにくいように作用しているわけで、ロールは小さくなってもその乗り心地はすこぶる悪い。



* アンチロールバーの甘酸 *

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* この文章は「Nob's Extra」から転載しました。






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