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§2) 写真と散文





アンチロールバーの甘酸
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◆必殺アンチロールバーの威力

 ガレージにMGBが住み着くようになって間もないころ、『アンチロールバー』が装着できるなぞ知る術もなかった。

もとより堅いスプリングを装着しているから、ローリングを酷いと感じることもなかったし、サスペンション機構を観察しても形跡ひとつないのだ。初期生産のディーラー輸入がゆえのことである。

 ところがマニュアルを照らすとそれがある。さっそくガレージでクルマの下に潜り込み詳しく観察。

 するとまず、サスペンションのロアアームにリンケージ用の穴が無いことを発見し、続いて、シャシーのメインフレームにマウント用のボルト穴を見つけた。

 「なるほど、ここに取り付けるのか...」

 そう思うと途端にロールが気になり始め、だからコーナーが遅い! と嘆くのだった。実際のところヘナチョコな運転ではバーの在る無しなんか判ろうこともないのだが。

 しかし、それはそれ。矢も盾もたまらず、取り急ぎパーツリストからあれこれと物色をはじめる。だが、どれがどんな効果を表すのか、まるで見当がつけられないではないか。う〜む...費用もかかることなので、一旦は諦めて乗り続けることで納得するしかなかった。



 しばらくの月日をかかる不満に明け暮れたのち、サーキット走行会の誘いがきた。おお、我が相棒をサーキットで存分に走らせてやることができるのか、それなら...と、一も二もなく参加を告げる。

 さて、これを機会にサスペンションの大手術だ。

 スプリングの強化に加えてアンチロールバーも、と思案していたとき、渡りに船、先輩の一人が 7/8"のバーとアルミのマウントを譲ってくれると言う。なんとありがたいことだろう。

 喜び勇んで工具を手にして、真っ赤に塗装が施された「コンペティションスペシャル」と呼ばれる競技用アンチロールバーの装着にとりかかった。

 ロアアームの交換を終え、リンケージを取り付ける。メインフレームのボルト穴もピッタリだ。各部の締め付けトルクを点検し、準備完了。ガレージでボディを揺らしてみては走りを想像して興奮する。

 いつも使うテストコースにて、いざ!(といってもただの土手道でしかないのだが、その洗濯板状の路面はサスペンションのチェックにはもってこいなのである。うしし)


 徐々に速度を上げ、ひとつずつ吟味するようにコーナーをクリアする。

 心なしか堅くなった乗り心地が、必殺の赤いバーを思い起こさせ、なかなかの満悦に酔いしれていたとき...。


 『ガツンッ!』

 「な、なんじゃ ? !」


 ハンドルを切るたびに同じ音が鳴りはじめた。

 しかもハンドルを握る手には結構な振動を感じる。やばい。

 慌ててクルマを停め、おそるおそる確認すると、なんとしたことかセンターマウントがぐらぐらに緩んでいるのだ。

 ガレージに帰還。

 再び観察してみると、センターマウントは緩んでいたのではなく無惨にも引きちぎれていた。そう、メインフレームのボルト穴ごと飛び出してしまっていたのだ。なんたる事態、これでは万事を休するしか手がない。

 マウントの穴は経年の風雨にさらされ腐食し、すっかり脆弱になっていたらしい。そこへ嬉々として、強靱なトーションバープリングの最も応力がかかるマウントを取り付けてしまったのだから、一溜まりもない。

 サーキットにおける必殺の赤いバーは、あろうことか我が身に必殺だったワケである。ガチョン。


 その後MGBは、優秀な鉄工所を営む友人の手を借り、分厚い鉄板で細工したギプスを嵌め込まれた。オリジナルに勝る強度のマウントブラケットを得て、めでたく蘇生している。

 しかし、如何にも 「7/8"コンペティションスペシャル」は体に悪い。少なくとも街で振り回すには不向きなアンチロールバーではある。

 いたしかたなく新たな出費を覚悟して、いまは 「3/4"コンペティションスペシャル」 がMGBのロールを支えているのである。

 物事というもの、どうやら程々という事柄が肝要らしい。



* アンチロールバーの甘酸 *

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* この文章は「Nob's Extra」から転載しました。






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